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新しい観点別評価について【前編】

新しい観点別評価について【前編】

令和3年度から中学校において新しい学習指導要領が全面実施となりました。これにより学習評価のしくみも変更になり、「観点別学習状況の評価(以下、観点別評価)」の観点が「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習に取り組む態度」の3つに整理されています。新しい学習指導要領においては、各教科の目標や内容を「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「学びに向かう力、人間性等」といった資質・能力についての三つの柱で再整理しており、構造的には、資質・能力の三つの柱を3つの観点で評価するといったわかりやすい形になったといえるでしょう。(ただし、「学びに向かう力、人間性等」については、「主体的に学習に取り組む態度」として観点別評価で見取ることができる部分と、例えば感性や思いやりのように観点別評価や評定にはなじまない部分があるため、後者は個人内評価として一人ひとりのよい点や可能性などが評価されることになります。)
今回は新しい観点別評価について、【前編】では考え方を、【後編】では具体的な実践方法について述べていきたいと思います。

新しい3つの「観点」とは?

資料-1の(A)はこれまでの観点と比較したものです。「知識・技能」と「思考・判断・表現」はこれまでの観点の中にも存在していた語ですが、「主体的に学習に取り組む態度」についてはまったく新しい語が使われているため、「これまでは存在しなかった何か新しい観点が登場したのか?」と思われる保護者の方もいらっしゃるかもしれません。まずは「主体的に学習に取り組む態度」とは何か、についてご説明したいと思います。

資料-1 観点別評価・・令和3年度からの変更点

「主体的に学習に取り組む態度」とは何か?

まず押さえておきたいのは、「主体的に学習に取り組む態度」の観点は、従来の「関心・意欲・態度」の観点と本来の趣旨は同じ、ということです。ただし、これまでの「関心・意欲・態度」の観点については、授業における挙手の回数や毎時間ノートをとっているかなど、性格や行動面の傾向が一時的に表出された場面をとらえる評価であるような誤解も(一部では)あったことが指摘されており、こういった誤解を払拭するためにも、今一度趣旨を明確にするという意味も込めて「主体的に学習に取り組む態度」と改められたわけです。

資料-1の(B)は、「主体的に学習に取り組む態度」の評価について述べられたものですが、ここでは中学生が知識や技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりすることに向けて粘り強い取り組みを行おうとする側面と、自らの学習を調整しようとする側面の二つの側面から評価することを求めています。
ここでいう「学習を調整する」とは、子供たちが自分の学習の目標を持ち、進め方を見直しながら学習を進め、その過程を評価して新たな学習につなげるということです。要するに、自分の学習をより良くする(改善する)ために、さまざまな試行錯誤を繰り返していく取り組みが大切であるということですね。このことは従来から重視されてきたものですが、今回の「主体的に学習に取り組む態度」は、こういった趣旨をより強調したものとなるわけです。

3つの観点は相互に関連している

さて、ここまで「主体的に学習に取り組む態度」についての趣旨についてお伝えしてきましたが、ここで大事なポイントがあります。それは「主体的に学習に取り組む態度」の評価は、「知識・技能」の評価や「思考・判断・表現」の評価と無関係ではないということです。
前述の通り「粘り強い取り組み」やその中での「学習の調整」は、「知識・技能」や「思考力・判断力・表現力」を身に付けることを目的にしています。つまり、「主体的に学習に取り組む態度」は、ある特定の事象(例:ノートがきれいだ)だけを取り上げて評価するものではなく、その取り組みが「知識・技能」の獲得や「思考力・判断力・表現力」を身に付けることにどうかかわっているのかということが重要になってくるわけです。
教科学習の基礎である「知識・技能」がベースになり、それを活用した「思考・判断・表現」、そしてこれらの力をしっかり身に付けるための学習を進化させる取り組みが「主体的に学習に取り組む態度」といった具合に、3つの観点は相互にかかわりあっています。
学習活動を主体にしても同じことが言えます。中学校では毎日さまざまな学習活動が行われていますが、一つの活動が一つの観点だけの評価になるとは限りません。

資料-2は学習活動と観点別評価との関係を例示したものですが、定期テストで高得点を取ったから、即どこかの観点がAになるといった単純なものでもないということがわかると思います。(教科や先生によって評価方法や配点は異なります。)中学校でのさまざまな学習活動の評価はこの3つの箱(=3つの観点)に貯金をためていくようなイメージで蓄積され、それぞれの観点の評価(A・B・C)が決まります。そして、3つの観点別評価を総括したものが評定(5段階)となるわけです。

資料-2 3つの箱に貯金をためていくイメージ

「主体的に学習に取り組む態度」の評価について

ところで、実際の評価方法や材料についてですが、「知識・技能」や「思考・判断・表現」は定期テストや単元テストなどのテストで評価しやすいのに対して、「主体的に学習に取り組む態度」はテストではなかなか評価しにくい、という性質があります。

また、前述の通り、「主体的に学習に取り組む態度」は、「粘り強い取り組み」やその中での「学習の調整」といった二つの側面から評価されます。言い換えれば、知識・技能や思考力・判断力・表現力などを身に付けるために努力する姿や、自分の勉強をより良くするための工夫などが重要になってくるということです。そこで、資料-3に、努力や工夫を先生に伝えていくための3つのポイントをまとめてみました。

資料-3 努力や工夫を伝える3つのポイント

提出物

まずは提出物についてです。よく保護者の方から「うちの子は、テストの成績も良く、提出物は全部出しているのに5が取れません。」というご相談をいただくことがありますが、ここで確認したいのは、提出物は「出せばいい」というものではない、ということです。期限や提出方法を守って出すのは当然のこととして、出さなければC、出してB、内容でAをねらう!くらいに考えておきましょう。

ふりかえりシート

次にふりかえりシートについてですが、これは教科や先生によって、形式や内容が大きく異なります。ただ、多くの場合は学習日、目標、内容や項目から始まって、学んだこと・できるようになったこと、また疑問に思ったことやできなかったこと、今後の課題や改善策などを書くケースが多いようです。
もちろん、指示された内容は全部記入するとして、特に力を入れて欲しいのは「今後の改善策」です。何度も繰り返しますが、主体的に学習に取り組む態度の評価では、自分の勉強をより良くするための工夫なども評価されるからです。
ここでは、自分で考えたことはもちろんのこと、例えば美術の鑑賞や社会科の発表などのグループワークを通して、仲間からもらったアドバイスなども大いに参考になります。

授業中の取り組み

最後に授業中の取り組みについてですが、ここでは2つのポイントを挙げておきました。
まずは良く言われる積極性です。と言っても、挙手の回数などを競うわけではありませんので誤解なきようにお願いします。大切なのは授業に「参加」すること、つまり自分の意見や考えなどを仲間や先生に伝える(発表する)こと、そして仲間の意見にも耳を傾け、みんなで考えていくことです。
もう1つは協力を挙げておきました。困っている仲間を助けること、特に実技教科などでは○○ができなくて困っている人に教えるなどの姿勢も大切です。体育の運動や競技、音楽の演奏、美術や技術・家庭における用具の使い方や表現技法など、いろいろなシーンが考えられます。
また、各教科の授業では学習活動に必要な準備や片付けが必要になってくることもあります。用具や器具などを準備したり片づけたりするシーンでも、進んで手伝うなどの協力姿勢が大切になってきます。

次回は【後編】として、具体的な実践方法についていくつかの例を挙げながらお伝えしていきたいと思います。

この記事を書いた人

浅野 剛

あさの たけし

浅野 剛

進研ゼミ 高校受験総合情報センター センター長

元大手進学塾高校入試担当部長、入試情報統括を歴任。30年以上にわたって受験指導を行い、多数の生徒を志望校に合格させてきた高校受験のエキスパート。現在は、中学生・保護者向けオンラインセミナーの講演をはじめ、中学校での進路講演なども担当。

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