FOVE, Inc. CEO 小島由香

視線を捉える
VRの先端技術が
仮想空間の可能性を広げる
FOVE, Inc. CEO 小島由香

PROFILE

ゲーム関連の会社2社を経て、2014年、FOVEをアメリカで起業。家庭用として世界初の視線追跡型VRデバイス「FOVE」を発売。「人間をあらゆる制約から解放したい」という理念のもと、VR技術やその関連コンテンツの開発、世界展開を行う。

「FOVE」は
何に使う装置なんですか?

世の中に出してみたら、
思わぬ分野で使われた!

FOVEはVR用のデバイスです。VR(Virtual Reality、仮想現実)とは、スノボのゴーグルのような形の装置をつけると視界全体が「画面」になり、その世界に入り込んだように感じられる技術。私たちはそこに、ユーザーの視線を認識する機能を加えました。

発売当初はこの機能を生かして、視線でプレイヤーを動かすゲームとか、俳優と目が合う映画なんかができたらいいなと考えていて、実際にそうしたゲームも生まれました。しかし今、FOVEを使いたいという話が、思わぬところからいくつもきています。

それが、ヘルスケアの分野です。例えば緑内障の視野検査。専門の機器よりずっと手軽だということで企業から声がかかり、視野検査用のアプリ開発の技術支援を行いました。また、視線には脳の状態が反映されることから、酒気帯び運転や脳震盪の状態のチェックにも使われています。他にも、体が不自由な方が目でピアノを弾いたり、寝たきりの方がVRでロボットを操作してリモートで結婚式に参加したり、FOVEを使うことで物理的・距離的な制約を飛び越えています。

前職でゲームを開発していたのは、作り手が結末を決めるのではなく、ユーザーが操作によって自分なりの物語を描ける点に魅力を感じていたからでした。FOVEも期せずして、ユーザーの皆さんが、私も想像できなかった物語を描いてくれています。

なぜFOVEをつくろうと
思ったんですか?

原点にあるのは、
中学時代の孤独体験

FOVEのアイデアを思いついたのは、ゲーム開発者時代です。ゲームの中では、キャラクターとのコミュニケーションが主に言葉で行われています。でも、「目は口ほどにモノを言う」という通り、実際の人間のコミュニケーションには、視線をはじめ言葉以外の要素も多い。それをゲームに取り込みたいと考えました。

このアイデアのルーツをたどると、中学時代に行き着きます。10代の私は、ディープなオタクでした。マンガの同人誌をつくり、コスプレをして、コミックマーケットに入り浸る。当時の社会は、今ほどオタクに理解がありません。クラスでは、仲間はずれにされました。誰からも話しかけられず、勇気を出して声をかけても避けられる日々。およそ2年間、「人と話す」という普通なら何でもないことが、学校では成り立ちませんでした。

自分の気持ちを表現して、誰かに伝えるにはどうしたらいいのか、みんなは私のことをどう思っているのか。一人になるとずっと考えていたように思います。人とわかり合いたいという強い気持ち、それが「アイコンタクト」――FOVEの核となるアイデアにつながりました。

20年後、どんな社会に
なっていると思いますか?

効率化が極限まで進み、
人と会わなくなる

VRを使うと、ネットを介して世界中の人と、その場で会っているかのようなコミュニケーションができます。通信速度が上がり、装置も今よりもっと手軽なものになる20年後は、効率化を求めて誰もがそれを使うようになるでしょう。通勤はなし。学校もオンラインスクールになるかもしれません。

効率化が目的だから、1回1回のやり取りは短くなると思います。最近、海外の人とチャットで仕事をしていますが、「お世話になります」とか「よろしくお願いします」とかはなく、用件だけが簡潔に書いてあるんです。VRでも、必要な会話だけを次々こなしていく形になる気がします。

リアルで人と会わず、ネットで会っても用件だけという状態では、人は孤独を感じます。そのとき、常に誰かとつながろうとすると、とっても息詰まるんじゃないかと思うんです。SNSで少しでもレスが来ないと心配になる人がいますよね。お子さんでも、もしかしたら保護者の方でも。今すでに、孤独に耐える力、孤独筋肉みたいなものが弱まっているのかな、と。

20年後に向けて、
今できることは何でしょう?

孤独な時間の豊かさを知ること、
限界を決めないこと

中学時代から孤独の価値がわかっていたわけではありません。当時はただ、辛かった。でもそこで執念深く考え、何とか自分の感情を吐き出そうとオタク作業に専心した経験が、コミュニケーションへの嗅覚を磨き、起業につながりました。

もしお子さんが一人で作業や考えごとに夢中になっていたら、それが何であれ、あえて声をかけない時があっていいと思います。極度に集中して周りが見えない状態、いわゆる「ゾーン」に入ると、それは「寂しくない孤独、豊かな孤独」になるんです。孤独は悪いことじゃない。深く考える力、集中する力を鍛える、実りある時間だと知ってほしい。

心が折れなかった理由はもう一つ、母がなんでもほめてくれたからです。テストの成績だけでなく、マンガでもコスプレでもどんなことでもやや過剰なくらいに認めてくれて、それに励まされトライしていくことで実際に小さな成功体験を積んでいきました。母は臆面もなく「由香は世界一になれる」と私に言うんです。そのせいで思いあがりもしましたが(笑)、今も「これ以上進めない」と感じたことがありません。

特に日本だと女の子は、無意識のうちに出世できないと思い込んでしまいがち。「世界一」ぐらい言ってようやくトントンですよ。大人になって、社会を知って、自信がちょっとずつ目減りしていっても、子どもの頃の成功体験と、「世界一って言ってくれたんだ」という自己肯定感があれば、簡単に限界を決めないし、折れないと思います。

FOVE, Inc.
小島由香さんTwitter

Special Interview 『未来への鍵』

未来を予測しにくい時代だからこそ、これからの進路を幅広く考えることも大切です。20年後、今の中学生が大人になったときともに社会で活躍しているであろう挑戦者たちに、未来を生き抜くヒントを教えてもらいました。

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取材・文 / 児山雄介(オンソノ)
写真 / 坂井公秋
編集 / 横田真里子

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